カブトムシ⑤

近年ではそれ程でもないようだけど海老の消費量は世界一と言われて久しい。

もちろん僕も海の近くで育ったこともありよく食していた。

大人になって海老料理のバラエティの多さに驚いたものだけどどんなに趣向を凝らしたとしても生の海老には敵わない。

とは思はない。

エビマヨが一番美味いと思う。

小さな労力で大きな成果を得ると言われているが最近はある程度の成果を得るにはそれなりの努力が必要であるという意味にも使われることを知った。

海老も高級になったものだなと感心している。

友人が操舵する小型船にのって数多く沖に出ていた。

沖に出ると岸釣りと違い手釣りの快感が味わえるので僕は沖釣りを好んでいた。

「今日は鯛を上げようか、海老があるから」

友人は漁場を把握していて正に海老鯛である。

しっぽの方から針を通して海中に数回垂らすと赤い鯛が釣れて数匹の釣果があると今度は小島に近寄り碇を降ろした。

Tシャツを脱ぎ海水パンツに着替えて海に飛び込む。

海中メガネはしていたがシュノーケルは必要ないと漁師の息子は言いながら身体を折りたたんで真っ逆さまに潜り込んでいくと二つ三つのサザエを両手で持って上がってくる。

その頃はサザエは元より希少なアワビも見つけることができたが彼は何故だかアワビには手を出さなかった。2度目の夏に漁協に遠慮していることをこっそり教えてくれて専用の金物が必要なために僕にはどう頑張っても摂れないだろうと思っていたことを明かした。当時は近海を巡視する船舶もなく漁協に行くと結構な金額で買取ってもくれていたらしい。

そのまま船上で捌いて刺身にしてくれると持参したおにぎりのおかずとなり何とも豪華な食事であった。

「田舎に帰れば只で食べられるのになあと少し高いお店に行くたびに思っているんよ」

淡水魚が泳ぐ水槽を横にして喫茶店で打合わせをしている取引先の都会育ちに自慢をしているとじっと水槽の中を凝視している彼が驚いたような顔をしている。

「どうした?確かに色が華やかやね」

「いや違う、ほらここ見て。この木の下の方」

埋められた木の横で紫色をした子魚が身体をよじりながら悶えているようにみえる。

よく見ると小エビがそのたくさんの足を使って子魚を鷲掴みして捕食しているのだ。

僕はそのどう猛さに驚き思わずガラスを叩いた。

「海老って肉食?プランクトンとかさ微生物を食べるんじゃないと?」

「いや僕が知るわけないでしょうよ、マモさんが知ってるべきでしょうよあんなに熱く語っていたんだから」

全く知らなかった。

コメントする