最後尾である自分の席にあらためて感謝した。
クラスの半分が学食に行った頃に僕は胸の高鳴りを深呼吸して静めながらゆっくりとそれを机の上に置いてみた。意外にもなかなかどうして安定感がある。
というのもその朝、布製で白と紺色のストライプをした巾着袋を渡された時に見た目の良さにほっとしたのだ。とりあえず纏った衣装は恥ずかしい物でなくハイセンスであった。
洋服のセンスが全くない僕でも、それは恥ずかしい物ではないと誰もが言ってくれそうである。
しかし内容が伴わなかった場合、著しいアンバランスが生じた場合を考えてすぐに机の中に纏った衣装を消した。
いよいよである。御開帳である。
既に隣の少年は空腹を早く満たしたいようにお行儀が悪い食べ方をしている。
幸い僕の机上に視線は向かないようである。
自分ではどうしようもない、努力とか継続とか普段の行いとか成績とかは関係なく、そこにあるのは運命でしかない。
祈りである。
小学校の運動会の時に母と食べたお弁当がここにあって欲しい。
いや違う、お稲荷さんと太巻きがあっては尚更おかしい。
意を決して唾を飲み込んだ僕は薄い黄色のプラスチック製のおかず入れの上蓋を手にかけた。
緊張が最高点に届き始めた瞬間だった。
斜め前の女子が振り返ってこちらを観察していることに気が付いた。
「あっ、今日はお弁当なんだ」入学以来最も緊張している僕に事も無げに言い放った。
ド緊張である、何気ない言葉は何気ないほどに鋭利さを増して強度を増してこちらに向かった。
子ウサギを狙う複数の狼たちがじわりと振り返った。
もし彼女が僕に気があるのなら、僕の事が好きで堪らないとしたら僕は完全に彼女を嫌ってやる。
蓋を閉じた僕は一旦水筒の水を飲むことにした。この行動は更に窮地に追い込まれる事を僕は知っている。
早く楽になる為には、ひけらかす事が最善なことのはずである。
しかし少しだけ見えたのだ。
茶色をしたお魚が2尾、匂いを放ちながら見えたのだ。
焼き魚はどうなんだろうかと思いながら蓋を閉じたのだ。
いったん休憩である。
入学試験の発表の掲示板を見に来て怖くなって目を閉じているようなものである。
しかしこの一連の行動を僕は事も無げに行ったのだ。
「ふんっ、お腹なんて空いてないから食べなくていいんだけどお婆ちゃんがせっかく作ってくれたし、食にこだわりなんてないからおかずなんて何だっていいんだから」というような態度を装っていた。
しかし、事は予想外の方向へと流れていった。