初枝さんのお弁当④

上陸して勢力を落としたその円形は左カーブを描いて逸れている。

「大丈夫ですね、もう大丈夫でしょう」そう言ってお婆ちゃんを振り返った。

「飛行機は飛ぶのかな?」心配そうな様子をしている彼女はずっと画面をみている。

「息子さんだったんですか今日来た人」平静を装って何気なく聞いてみた。

「だらしがない子でね」小首を傾げて肩を落としながら笑顔をつくっている。

その先の言葉を待っていたが二の句をつけないままじっと考え込んでふっーと溜息が漏れてきた。同情を誘う程の溜息には呼応してあげたほうが良いような気もする。

何があったんですか?と聞いてあげるべきかを悩んでいる

飛行機を使って訪ねてきた息子が母親に何を言いに来たというのだ

お金の事だろうとは容易に想像できた、タクシーと飛行機を利用するのであれば金額はそれ相当でもあるはずだ。

しかも、電話でなく実家に出向いたのだ。

「この年齢で最近色々心配事が多くなってね、親孝行なんかしなくてもいいのよ。親は子供が元気で自立してさえいれば親孝行なんて何にも要らないのよ」

親の脛をかじる事が親孝行であると何かの本で読んだことがあるが、どうやらそうでもないなとこの時に思っていた。

「ごめんなさいね、もう遅いから休みましょうね」

困惑したお婆ちゃんの相談役にもなれない僕はお茶を飲み干して部屋に戻った。

「お婆ちゃん元気出してね」そういうのがやっとだった。

布団の中ではお弁当の心配とお婆ちゃんの事を心配していた。

銀色アルミ製の弁当箱に梅干しが真ん中にあって隅のほうに沢庵があっておかずは卵焼きだけだったらどうしよう。

いや待て彼女は夕飯のすき焼きに僕が異常に反応した事を知っている。2段重ねの小さなおかず入れにすき焼きだけが入っていたら最悪だ。

風が収まり静けさを取り戻した深夜にお婆ちゃんの身の上と及第点のお弁当を祈って眠りについた

飛行機は問題なく飛んでいるはずだ。

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