渡されたメモにはびっしりと食材が書かれている。
そのすべてがカタカナだったがやはり冷凍食品はなく野菜とお肉と魚だった。
倉庫からおじいちゃんが使っていたという自転車を引き出して来て軽快に飛び乗った。後輪の上には大きな籠が括りつけられていた。
半ば強引に僕は自ら買い物に行って来るとお婆ちゃんを説き伏せたのだ。
「お菓子とかジュースとか好きなものを買ってきていいからね」恐縮した彼女はそう言って素直に僕を送り出してくれた。
迷っていた、お弁当に入れて欲しい冷凍食品を買うべきか。
いや、気分を害するに違いない。
しかし明日のお弁当に僕が望むおかずは絶対に入っていないはずだ。
味や量には何の不安もないがクラスメートに注目を浴びるであろう初めてのお弁当はしっかりとした見た目と物、高校1年の男子が喜ぶ物が納まっていなければならないのだ。
しかし、やっぱりメモのとおりの食材だけを買った。
スーツを着たその人は胡坐をかいて静かに座っていた、僕の帰りに気付いて元の表情に戻そうとして戻せなかったお婆ちゃんの目が事の重大さを物語っている。
会釈をした僕は荷台から外した籠を台所に運んでからレシートとおつりをお婆ちゃんに渡した。
「ありがとうね、助かりましたよ。ごめんね」
廊下を背にしたその男性は煙を吐きながらテレビを眺めている。
会話はなかった。
早く部屋に帰って欲しい様子を彼から感じ取った。
息子さんだろうと思ったし報告系や相談系ではなく依頼系なんだろうと思った僕はシャワーを浴びて来ますと告げて部屋を出た。
廊下を挟んで存在する僕の部屋に居たのでは聞き耳を立てればその内容が聞こえてしまう。
ゆっくりと水を浴びながら想像した。他人事であり想像しなくてもよい余計な事を想像していた。確かにそれは自分には何の関係もない、影響もないであろう事。しかし小さい頃から宿った心配性の根っこがむくむくと大きくなって、やがてそれは枯れた花になるように悪い結果を想像していた。
猫足で歩いた廊下を部屋に入る間際に咳払いをした。
暫くしてクラクションが鳴った。雨を嫌ったドライバーが車の中から知らせたのだろう。
客人は横玄関から引戸を閉めて外に出た。
お婆ちゃんは怒っている、見送りをしない事がその心情を物語っている。
「お団子を作ったよ、食べようか」
茶の間の灯が消えていつもなら横になるはずの時間にお婆ちゃんが誘いに来た。
僕はお腹が空く時間であり、夜食のカップ麺にそろそろお湯を注ぐ時間だった。
昼食代と夜食代で僕の一か月のおこずかいは消えていた。
ずっと台風情報を見ながら二人でお団子を食べている。
テレビ見る僕の横顔を正面から観察しているのをさっきから感じていた。
さあ来いと思っている、