フェチ⑥

「山口智子やん、可愛いね」

これ位から話を始めたほうが良いと思考を一瞬にまとめた僕は下手な役者みたいにやや浮ついた声を出した

「そうね」一言でかたずけた彼女はカルピスソーダのボタンを押した

どうしてこんな思いをしなければならないのかと感じるが用心に用心を重ねる性格はどうしようもない

「結局、何が言いたい?」

部屋に戻った彼女は口をついて出てくるまわりまわった僕の説明に笑いながら顔をかしげる

「だからね、首があるでしょう。この辺から下ね」自分の右手を水平に顎の下に納め「ここからここまで」顎下の右手を胸の上部まで移動させた。

「そんでその範囲は肩と二の腕も入る」指で横広の長方形を描いた

僕は厚い胸板も胸毛も咽喉ぼとけもシックスパックも血管が浮く逞しい腕も持ち合わせていない。そんな僕のどこがいいのとは馬鹿みたいでとても聞くことはない

しかし彼女にどうしてもあの服を買ってあげたかった

経済的な余裕があまりないのだから既に持っているのであれば着ているところを見てみたい

その日、僕はインナーとかトップスとかチューブトップとかアメスリとかデコルテとか知らない言葉をたくさん学んだ

「友達の結婚式に着ていくような服の中にあるよ」さらりと言った

「という事は写真あるよね」その時の僕はおもちゃをねだる子供みたい顔をしていたに違いない

気持ち悪さを印象させる怖さに好奇心が勝った

彼女の説明によるとチューブトップは胸に自信がある人じゃないと似合わないらしく山口智子さんの衣装はアメスリらしい

「かわってるねー、普通胸とかお尻とかじゃないの男性って?」

自分でもよくわからないどうしてそうなのか

「だけどさそれはいいとしてさ、なんでさっき指で示した部分のさ肩と二の腕以外が隠れる服がいいのかがわからない」

「そうなんよね、なんでだろう」

あかちゃんがお母さんに抱かれてすやすやと眠るあの部分

左手は首に巻かれて右手は二の腕にまかれるあの長方形

胸が大きい女性だと赤ちゃんのい居ずまいも悪くなりそうだ

「これは?」

彼女は薄いカーディガンを肩から外した

クラクラとした

それはアウターという物らしく現われたのはノースリーブのシャツから晒された肩と二の腕だった。

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