フェチ⑤

500や100ではなく10円玉貯金をしていた僕はかなりの枚数になるとアパート下の自販機で無糖の缶コーヒーを大量購入していた

冷蔵庫にずらり、きちんと並べて悦に入っていた、それは決まって金曜の夜。

笑顔になれた

決して直ぐに消化される事は無く土曜日に彼女が来るまで我慢する

愚かでつまらない変な行動だけれども自分では何となくカッコいいとさえ思っていた

下段には数本の缶ビールが存在している、他には何もない。

オツリノホジュウッ、オツリノホジュウッとつぶやきながら外階段を降りて行く、微糖も混ぜるかと思案しながら取り出し口に溜まらないように2本抜き、10円を連投して膝を折り又連投する、更にまた2本抜く。

次に膝を折ったときにその衝撃が僕の目を射貫いた。

記憶が定かではないがロングバケーションというドラマが放映されていた時じゃないかと思う

ビールだかコーヒーだったかは判然としないが片手に商品を持ち上半身の山口智子さんが僕に微笑んでいる

もちろん素敵な女優さんだし魅力がある女性には違いない

しかし僕の鼓動が早くなった理由は顔ではなくその衣装だったのだ

父親の父という漢字の

上の両端を首の後ろで結んでいるように写っている

ドキドキしてきた

恥ずかしいことだけれど僕はこんな服は初めて見たのだ

全くもってファッションに興味がないし特に女性が着るものなんて何でも良かった

写ルンですに余裕があったかな?部屋に戻った僕は全部使い切っている事に腹の底からがっかりした、コンビニに走った

既にスマホは発売されていたのかいなかったのか覚えていないがその時にもし買いあぐねていたのならこれが要因となり即日購入していただろう

もう缶コーヒーなんてどうでも良い

雑多に並べた

翌朝カメラ屋さんに持参して現像を依頼に行ったが部屋の壁とか家の周りの風景とかどうでもいい写真を混ぜる事は抜かりなく行った。

思春期の少年がそうするように楽しみを味わう前にやらなければならない掃除、洗濯、明日の準備を終えてからゆっくりと写真を凝視した

いつもは清潔感を演出するために行うことを全く違う事の為に済ませた

クリーニングを取りに行くことはやめてしまった

場合によっては今週は彼女に急用が出来てもいいとさえ思っていた

このことが彼女に知られたら何かが壊れそうな気がする

エッチ系ではない気もするしエッチ系である気もする

エッチ系と判断されると僕は怒られるのだろうか

迷ったあげく浴室の点検口の裏にこっそりと隠した、そこにはとてもとても他人には知られたくない宝物がたくさん存在している

悟られない様にごく自然に何気ない口調で僕はその事を聞かなければならない

意を決した

「あのさコーラ飲みたくない?」

「買ってこようか、珍しいねコーラ飲みたいって」

違う、一緒に自販機まで行かないと意味がない

確かにドアを出て10秒で行きつくそこに2人で行く意味はない

「いや俺が買ってくるけど何か飲みたいものある?」

「うーん、何かなー何があったっけ」

作戦成功とはこのことだ

2人で並んでドキドキしている僕を横目に彼女は口のまえでグーをつくり決めかねている

「いやいや服を決めてるんじゃないんだから」

以前、彼女のお買い物に付き合ったときに少しだけ2人とも不機嫌になったことがあった

しかしこの時ばかりは疑問の突破口を探さなければならない

僕は、このタイミングをはかり言葉を選択する一瞬間に感謝した

山口智子さんはそんな僕の心情を察しているように笑っている

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