セキリョクシキジャク

せきりょくしきじゃく

大陸の奥深い未開の地で捕らえられた孔雀科の新種の鳥の話ではない。

まったく意識も自覚もしていなかった

日々の生活において何ら不自由はなかったし困るような事もなかった。

突然に意識したのは身体検査の日であった。

身長も高く、ほっそりとした体躯は少しだけ自慢であったわけだから、体重を気にしだした女子を横目に威風堂々とした僕は、最終の身長計器に胸を張って臨んでいた。

162cm 去年から10cm近くは伸びた。

僕は誇らしく大股で体育館を出ていくはずだった。

出口近くに長テーブルがあり先生が一人一人に本を見せ順々に感想を答えているらしくクラスの生徒達が並んでいた。検査の最後に何が残っているのか?

絵本らしい。次々とページをめくり一問一答の答えはすぐに列が消化されて順番が回ってきた。正確には先生の問いはない、生徒が答えを言っているだけであった。

止まった、時がとまったのである。流れない、列が進まないのである。僕はその問いに答えられない。

言っておくが僕は勉強は嫌いであるが成績はさほど悪くはなかった。知能指数に至っては先生も褒めてくれた程であったから列を進められないわけはないのである。

数字が書かれてあるらしい。その、らしい数字がないのである。

足し算か掛け算かだろう、二桁ではないだろうと思うが何分なにも数字はなにも存在していない。

「わかりません、、」

「えっ?」先生が顔をあげる。不思議な顔で見つめている先生の表情がすぐに獲物を捕らえたライオンに見えた。

単調で簡単な誰もが即答する数字当てに飽きた彼女が、今度はゆっくりページをめくった。ライオンは食する前に獲物をもてあそぶ事を選んだのである。

そのページにもないのである。

あるのは丸い色鮮やかな大小の水玉であり、そこに数字は表わさられていない。後ろの生徒が僕の顔を覗き込んだ。順序良く整列したはずの生徒たちは塊となって長テーブルを囲んだ。体温がすぐに上がっていくのを感じる、耳のうしろがゾワッとしている、そこを汗がなでるように流れる。

恥ずかしさと恐怖は突然にやってきて口の中はカラカラとなっている。後回しにしてほしい、せめて僕を最後にしてくれと願った。

公開処刑である。すでに小動物と化した僕をライオンは許してくれない。

笑っている生徒たちを制したライオンはページを更にめくった。どこまでも逃げ去りたい僕を鎖でがんじがらめにしてページをめくった。

「6です。」

助かった、この時の6ほど嬉しかった6はなかった。その時僕は、今後において6はずっと僕を助けてくれる数字になると自分に予言した。

「12です。」

次のページの12は少し声が太く出た。自信である。1年生でも難なく答えるはずのクイズを精一杯に答えている自分が恥ずかしいが仕方がない。

さらにページがめくられた。

「ぬ ぬです。」本来は1回で良いはずを2回に分けている。

確信である。安堵と誇らしさで自分を取り戻した子ウサギはついに鎖を解きほどいた。

さきに終わった女子が振り返って覗き込んでいた。

そう、不思議な顔で覗き込んでいた。

A子は僕に気があるはずの子である。さっきからにやけているほかの子と違い心配そうな表情を隠せてはいない。体重も身長も僕が指した目盛りをチェックしていたようだった。

さっきまで微笑んでいた少女が心配そうに眉を寄せている。

「解るの?」「解るよ!」「なんで解るの?」

違うんだ、間違っているんだ。一瞬で自覚した。

捕まえたうさぎがぬいぐるみであったかのようにライオンは絵本を閉じた。

赤緑色弱

ライオンは告げた。

町役場の設計図を見たことがあった。青く焼かれた紙に精密機械のように書かれた図面に心が躍った。将来の夢が建築士であった僕はその後中学に進んで色覚異常の人間はその資格を得られないことを知った。

残念ではあったが落ち込みはしなかった。

10年後、2頭目のライオンが現われた。

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