牛乳も野菜もバナナも大好きだ。
しかし牛乳も野菜もバナナにも食指が伸びない。
体育館では全体朝礼が始まる。
月に一度の全校生徒が会するこの時間は恐怖以外の何物でもない。
校長先生の講和は得々と続き
学年主任の生活指導を少年少女達は緊張の面持ちで真剣に聞いている。
その中で僕は意識をなくし膝から崩れ落ちるのだ。
僕には今もって朝食の習慣がない、いや我が家は全員がお寝坊さんであったため母は朝ごはんを作らなかったのだ。味噌汁もトーストも他人より圧倒的に食した数は少ないと思う。
ある日曜日の遅い朝食のテーブルにコーンフレークが現われたことがあった。
子供の成長と共に外に働きに出だした母は急にドリップコーヒーも飲みだした。何かに触発された母は、初めて買い物かごに大きめの西洋の朝食メニュー菓子を入れた。
「牛乳を入れるのよ」得意げな顔には同時に不安も混じっている。
日に2食の習慣であった我が家は日曜も例外ではない。
遅めの朝食には土曜夜の残り物が通常メニューである
そこにコーンフレークである。
初めて目にしたドッグフードみたいな食べ物に少しだけ興味はあった。
お菓子である
食べ物ではあるが食事をした感覚はない。
それは突然にやってきた。
グルッグルとお腹が鳴り出している
悲鳴である
僕の胃腸が悲鳴を上げている
トイレに駆け込むと症状はすぐに治まる
僕は今でも食事の後に必ずトイレに向かう
なぜなのかはわからないが必ず腹痛を伴う
食事と排泄がセットになっていてとても仲良しである。
毎食後なのであるから時と場所を選ばない。
デートであろうが会議であろうが映画を見ていてもスポーツをしていても関係ない。
大人になった今でも大変で容易ではない排泄行動をしている。
しかし、街中のポイントは把握している。
パチンコ店にホームセンター、雑居ビルにスーパーと幅広く抑えているためにそうそう困る事は無い。しかしコンビニは極力避けている。
理由は簡単である、同志が多いためにせかされる思いをするのだ。
「明日から早く起きてごはんを食べなさい」
父の言葉は絶対である我が家には緊張が走る。
専業主婦として悠然とした午前中を過ごす癖がついていた母は大変である。
働き出した彼女には朝食の準備は余計なルーティンであり、そもそもそのメニューのことで頭が一杯であるはずだ。極端に料理が苦手であった。
僕は母が大好きであり頭痛持ちであった為に肩揉みは望まれなくてもしていた。
母に迷惑を掛けたくなかったし疲れた母を見るのは怖かった。
考えた、幼いながらに考えた。
一番に家を出るのは父である、食事をせずに出かける。
最後に母だ。
その間に朝食である。
バナナである。「味噌汁なんていらないからバナナにしようよ」
明るい返事が返ってきてその日から僕は毎朝バナナを朝食代わりにすることになった。
しかしそれは初日で終わりを迎えた。
学校で犯罪者になった僕は二度と朝食を摂らない事を心に誓った。