もって生まれていないもの

絵画には興味がありません。

理由は簡単です、絵が描けませんから。

屈辱的なことがあったのですから。

有名でなくとも有能な人が描いたであろう絵画には少し何かを感じることはあります。

美術館にも博物館にも出向いた事はあるのですが大きく心が動くことはありませんでした。同行の人に「どうして直ぐに次に進むの?」と呆れられます。

道徳の時間だったと記憶しています。

黒板の前に風紀委員の女子と並んで立っています。

その日、僕らの学校での生活態度を指摘した担任は制服の乱れも注意しようとしていました。しかし僕を含めた僕らの姿は全く問題はないように思っていました。

茶髪もメークもネイルなんてものもなく眉も制服の丈もみんなキチっとしています。

タバコなんてとんでもないし、バイクにも興味さえありません。ゲームセンターもファストフードも映画館もコンビニも無かったし隣町までは遠いので誰も行き来せず他校との付き合いは生じません。

あるのは成績の悪さと遅刻と授業中のオシッコくらいです。

なのに担任は服装がどうゆう風に乱れたら問題なのかを考えなさいと言っているのです。

しかもクラス委員である僕にそれを黒板に、その姿を絵にして描けというのです。

この年に町村合併が行われ二つの中学校が統合されました。なんとなくこのことが原因のような気がしました。

自然に囲まれ素直に育って中学生になり、他校との合併により緊張している日々を過ごす純朴な僕らに、不良化の余裕は誰にもありません。

しかし公開処刑は始まりました。

これだけで不良化につながりそうな指令を僕に下したのです。

「先ず人の裸の姿を描きなさい」

想像してください、いびつなバランスで構成された人間らしい身体に似た何かを。幼いころから絵を描いたことがない13才の少年は、それでも美術も教える担任の女教師の指令に従います。

壊れたぬいぐるみみたいな身体を書くとクスクスと聞こえはじめます。

「次はその人に傘を持たせなさい」

もうだめです。

嘲笑は爆笑に変わり赤面が白面に変わります。

果たして僕は何も言えずにうつむきました。

親友の犬塚君が助けてくれました。

お互いにこの町に転校してきた者同士であり、後から加わった彼と最初に友達になったのは僕でした。

彼は笑われる僕を救おうとしてくれたのだと思います。

しかし彼も絵が得意ではなかったのです。

逆の立場だったら僕は彼に何をしてあげられただろうか

小学生でした。

学校の近辺は風光明媚ではなくとも自然がいっぱいです。

絵画コンクールの題材の対象となる風景は沢山ありました。

僕の点数は5点でした。

もちろん100点満点です。

不思議です、5点の評価はおかしいと思います。

それなりに描いたのです。自分なりにですが決してふざけてはいません。

寒い色と暖かい色を質問されました。

暖かい色は赤と青ですと答えました。

青は寒い色が正解ですと言われました。

主観であるはずです。

僕のなかでは青は暖かい色です。

色が苦手な僕でもクラスのみんなが見ている青と僕の青は同一であると思います。

提案があります。

中学校では美術と音楽と体育は選択性としませんか。

中学生になりカラオケ店に誘われても行かなくなった者、運動が苦手で体育祭の日に雨乞いする者は中学に進学したらメインの5教科を代替追加選択できるようにしませんか。美術に恐怖を覚える者は5教科で必ず優秀な成績を収めるという条件のもと自分でカリキュラムを組むことを許されることにしませんか。

この3科目が得意な人は僕らが居ないことの方がより集中して授業が受けられるだろうしより高等な指導が享受可能なはずです。

彼らはどうせ将来に夢を見ている部類の選ばれし人たちです。

僕たちはただ学生時代を謳歌するという甘言に騙されるほうの一般人なのでしょう。

春画は好きです。

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