限界点

学力的には中の中、夢を見たスポーツ選手にはなれない事をすぐに自覚しレギュラーを外れた部活もやめた。

将来に対する夢はないし、希望もなかった。なりたい職業なんて1つも浮かばない。

特技もなければ情熱を燃やす対象も持ち合わせていない。

金融関係は間違いないと言って急に新聞を読みだしたり、やっぱり公務員だよねと問題集を買い漁ってみたり、必要な資格試験を受けたりしている友の中で、ただ漠然と緩いノルマの営業職を探していた。

当然の成り行きで地元中小企業の営業職についた。

春になると結局、周りもそんな僕と対して違っていなかった。

多くいた友人とも次第に疎遠になっている。

朝礼が終わると屋上にあがる。

上司の掛け声によるスクワットが終わると今月の目標を各自大声で発表して外回りに出かける日々を果てしなく続けている。

熱狂していた地元球団の応援にも以前ほどの熱はなくなり観戦は気分転換にすげ代わり、友人と楽しく飲んでいた飲酒は同僚との憂さ晴らしになっていった。

覚悟していた何倍もの力で社会は厳しさを突きつけてくる。

それでも女性はそばにいくれて、そしてアウトドア派のふたりが近頃はすっかり家に閉じこもってばかりいる。しかしその判断は僕がしている。

土曜の夕方に訪ねて来てくれるがどこにも出かけず日曜の夜に帰っていく。

日常に楽しさを見つけられない、ワクワクして胸が騒ぎ出すことがあってもすぐに仕事の事が浮かんできて一瞬で暗い気分になってしまう。特に月曜が怖くて土曜の夜からすでにビクビクしている。頭の中は仕事の事が支配していても営業成績は上がらず、仕事の事が一番考えたくない事だ。

フルコミでないから給料の上下はないがフルコミでない分だけ上司の言葉は罵声となる。

いまだに根性論を持ち出すステレオタイプの彼の憂さ晴らしの対象として存在している自分がいる。

会社が用意した意識を向上させるという自己啓発セミナーに参加しても、先輩からの叱咤激励を受けても自分を変えることが出来ないでいる。

不足する自身の力を他人に求めているのは自覚している。生活の為にやけっぱちにさえなれなくて、ただ酒の中で妄想ばかりしているが現実の明日は確実にやってくる。

不思議に思うことがある。世の男性で営業職の人は僕みたいに苦しんでいないのか。

がむしゃらに努力していて生活を成り立たせているんだろうか。

「みんなそうだよ、みんな頑張っているよ甘いよ君は」声が聞こえる。

わかっている、わかっているから3年間遅れをとらないようにやってきた。でもこれからもずっと継続する自信を失いかけている。少しばかりのポテンシャルでクリアした事が更なる壁に跳ね返されている。

打ちのめされた自信はやがてパーソナルな部分をも打ち消してくる事に気が付いた。

何も面白い事が言えなくなっている。あんなに輪の中心で楽しく騒いでいたはずなのに。

「今週は行けないんだ、ごめんね」

金曜の夜、彼女は焦るように最後にそう言って電話を切った。

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